生きるために

 作者 dbt
 

人が生きていくためにはどうしても避けられない事。
そして、その内の一つ。
糧が無くては人間は生きていけないのだ。

「お〜い、リナ
 何一人で格好つけてるんだ?」
オールを漕ぎながら、のほほんとした相変わらずの口調でリナに声をかけるのは自称リナの保護者ガウリイだ。ちなみに他称は多すぎるので割愛させていただくことをお許し頂きたい。
「うっ・・・うっさいわね人がせっかく雰囲気を盛り上げてるって言うのにっ!!!」
茶々を入れられ、膨れた顔でガウリイに怒鳴りつける。船の先で颯爽と風を受ける、自称天才美少女魔導師リナ。ちなみに他称は身の危険を感じるので、以下略。
「・・・そうですよね・・・生きていくためにはしかたない事なんですよね・・・。」
大きな目をうるうるとして目を擦りながら指をロープに絡めしゃがみ込む黒髪の幼い少女、アメリアは呟く。
「そう、生きるためには・・・色々な犠牲を伴うモノなのよ・・・。」
弱々しく、リナはその声に答える。
「・・・・・・・・おい」
ぼそりと声がする。しかしその声は湖を抜ける風にすぐにさらわれていった。

「リナ、もうそろそろ湖の真ん中だぞ。・・・本当にやるのか?」
先程まで持っていたオールを手放し、ガウリイは足下にとぐろ巻いているロープに手をかける。
「何度も言わせないで。
 その事についてはとことん話し合ったハズでしょ、ガウリイ。」
振り返りもせず、水面をただじっとリナは見つめていた。
「・・・・・・俺はまだ納得出来ていないぞ・・・。」
低く、響く声。ゼルガディスだ。
本人は冷酷な魔剣士というフレーズが気に入っているらしいが、どう見てもお茶目な魔剣士の方が似合っていると思われる。その証拠に、彼は今何故か体をロープでぐるぐる巻きにされていた。とてもじゃないが冷徹さのみじんの欠片もない、はっきり言って格好悪い。
「ごめんなさいーーー。ゼルガディスさんの犠牲は決して無駄にはしません〜〜〜っっっ!!!」
ロープの固定具合を確認しながら、こみ上げるものを抑えきれずに、アメリアはうわぁ〜んと泣き叫けぶ。
「ゴメンね、ゼル。
 お金もないし、町もない、当然仕事も無いしこのままでは皆飢え死にしちゃうわ。
 季節的に森には食べられそうな木の実なども実っていない。当然それを糧にしている動物もいないし。
 本当にお手上げ状態よね。
 だから・・・・本当にこんな方法しか・・・どうしようもないのよ・・・。」
最もらしい言葉を並べつつ、瞳をうるうるしながらリナはゼルガディスに語りかける。
「・・・・リナが呪文使えればなんの問題も無かったんだろうけどな・・・。」
「・・・・な・・・なんで・・・・んな事バラすなぁっっっ!!!」
やれやれといった感じで、さらりと言いにくいことを言うガウリイにリナは顔を真っ赤にして抗議する。今にも殴りかかるような勢いだが、流石に船の上なのでなんとか耐えているようだ。
「・・・そうだったのか」
その会話をちゃっかりと聞いていたゼルガディスが言葉を漏らす。そして何故かゼルガディスの顔も少し赤い。
アメリアはそんな会話を聞いていないらしく、念仏を唱えるように「ごめんなさい」と涙声で繰り返しつつゼルガディスのロープを更に強く締め付けていた。
「ま・・・納得して貰えたようね。
 アメリア準備はいい?」
まだ顔が赤いながらもリナは予定を遂行するべくアメリアに確認をする。その言葉を聞きアメリアはこくりと頷く。
「OK、それじゃガウリイお願い。」
ガウリイはその言葉を聞き、ロープの端をボートにくくりつけ立ち上がる。
「おい、待てっっっ!!!
 俺はまだ全然納得していないぞっっっ!!!
 だからって何故また俺が碇なんだぁっっっ!!!」
無駄の足掻きとはわかってはいてもゼルガディスは抗議せずにはいられなかった。しかしその抗議も空しくガウリイにひょいと抱え上げられる。
「すまんな、ゼル。」
ガウリイはぼそりと言うと、そのままゼルガディスの身体を船が傾かないようにバランスを取りながら高く掲げる。そして身体をしなやかに反らし、瞬間、跳ねる。
「うっあわぁぁぁぁーーーーーっっっ!!!!」

 どべばしゃーーーーんっっっっっ!!!!!

ゼルガディスの身体が宙に舞ったかと思うと、その圧倒的な質量で当然ながら急速に落下する。
穏やかだった水面が突如激しい水飛沫を高く上げ、静かな湖に不似合いな大きな音が辺りに響く。ただ、それは一瞬の事で、すぐに湖は静けさを取り戻していた。

「ゼルガディスさぁ〜〜〜ん・・・・この命綱はこのアメリアが命に代えても死守しますぅ〜〜〜。」
ゼルガディスの落下した辺りの水面を見ながら、固く拳を握りしめつつアメリアは誓った。

 ぽかっ!

「何馬鹿なこと言ってるのよ、さっさとやることやるのっ!」
リナはおセンチになっているアメリアを軽く叩きアメリアにひょいと釣り竿を渡す。
「リナさんひどいですぅ・・・殴るなんて・・・・ゼルガディスさんが可哀想じゃないんですか?」
抗議してきたアメリアを見てリナはため息をつきながら、
「・・・あんたねぇ・・・今何故ゼルが身を犠牲にしているのか忘れたの?」
「・・・・・・あーーーーーっっっ!!!お魚を釣ってご飯にするでしたっっ!!!」
リナに指摘され、アメリアは本来の目的を思い出しあわてて釣りの準備をする。
「待ってて下さいゼルガディスさん、正義の心で見事お魚さんを釣って見せますっっっ!!!」
そしてゼルガディスの落ちた方向に釣り竿をビシッとかざしポーズを取った。
「・・・・あんたまでガウリイ並の記憶力になっちゃったかと思って焦ったわよ・・・。
 ま、とにかく頑張りましょう、ゼルの犠牲を無駄にしないためにも。」
「おい・・・・」
ガウリイの抗議の声は無視しつつ、リナも釣りの準備に取りかかったその時、
ぐらっ!っと船が急に傾いた。
「何!?
 巨大な魚がかかったとかいうの!?」
リナは急な舟の揺れでバランスを崩してしまうが、なんとか持ちこたえてしゃがみ込みこむ。アメリアは舟の縁に捕まって身体を固定していた。
---- 一体何が・・・????
「リナっ!!!」
突如ガウリイの声が聞こえ、振り向く。
ガウリイは片手を付いて舟のバランスを保とうとしていた。その片手には釣り竿をもったままだ。
そして、その釣り竿の先には特に変化は見当たらない。
「あーーーっっ!!!ゼルガディスさんのロープがぁっっ!!!」
アメリアの叫び声に、リナは視線をゼルガディスの命綱の方に移した。ロープは余り無く湖に強く引き込まれ張りつめていた。
「ゼルガディスさん食べられちゃったんですかぁーーーっっっ!!!」
あまりの事にアメリアはパニックを起こしかけていた。
「とにかくこのままじゃ舟もひっくりかえっちまうっ!!!」
ガウリイは額に汗をにじませつつ、必死に舟を押さえつけていた。とてもロープを引いてゼルガディスを助けられるような余裕は無い。ロープを切ってしまえば舟は安定するだろうがゼルガディスを見捨てることになる。だからといってこのままではガウリイか舟が限界になるのは目に見えている。リナは決断を迫られていた。
「うぁっっっ!!!」
ガウリイが呻き声を上げたかと思うと舟が軽く揺れる。
突如激しく水柱が上がり、まぶしい明かりが辺りを照らした。

パターンその1       パターンその2



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