Heart to Heart -ガウリイSide-

 作者 dbt
 

 

早いものでリナと旅を初めて2年程になる。
出会った当初は15才だったはずだから今は17才のはずだ。
この頃イヤに大人っぽくなった感じがする。
胸は相変わらずみたいだけど。(こんな事言ってたら殺されるな)
でも実際綺麗になった。まぶしいくらいに。
町で歩いているとリナを見て振り返る奴もいる。
精気を帯びた力強い赤い瞳。
宝石の様に光り輝いている。

リナがオレを見る。ちょっと怒った感じで。
「ガウリイ、何か用?人の事じ〜っと見たりして。」
今の視線はオレじゃないんだけどな。(多分オレの斜め後ろにいる奴だ。)
「ああ、そろそろ飯時じゃないか?」
わざわざ教える気はあるはずもない。こういうときは話をそらすに限る。
リナは何故か納得のいかない顔をしている。
「そうね、御飯にしましょう。」
このあたりはまだまだ子供だ。
「な、何!?」
「いや、メシだと言うのにずいぶんおとなしいな。」
何故かあわてて言葉をつなぐリナ。
その様子はかわいらしい。
「あたしだって考え事くらいしてる時もあるの。」
「じゃ、何考えてたんだ?」
「とにかく、ご・は・んよっ!ぐずぐずしてると置いて行くわよ!」
つい、リナの髪をくしゃりとするのがクセになった。
柔らかい栗毛。指通りのいい髪。
ずっと触れていたくなる。


いつも通りの食事光景。
「おっちゃん!あたしAランチ5皿とBランチ5皿!」
「あ、オレAからCまで各5皿ずつ!」
そしてリナの愚痴が始まる。
「ガウリイ、あんたね〜。だいぶ路銀が少ないのわかってるの?」
「そういえば、しばらく仕事してないな。」
軽く微笑みをリナに返す。
お決まりのパターン。
「そう・・・仕事無いのよね・・・。って微笑みながら言うことかぁ!!」
同時にオレはテーブルに突っ伏す事になる。
「おまえなぁ・・・・。」
さすがにいかにリナが非力とはいえあまりいい気分ではない。
オレの背後の雰囲気も気になる。実害は無さそうだが。
リナの顔色が少し・・変わる。
「悪いけど盗み聞きさせてもらったわ。」
女の声だ。今度はリナの後方より店員がやってきた。
「・・・ちょっと聞いてるの?」
リナは臭いを嗅ぎ取ってか女の方に反応しない。
「へいっ!ランチおまちいっ!!!」
上手そうな食事がテーブルの上に並べられる。
「よし、食うぞ〜〜。」
まずは一声。
「あたしが先よ!!!」
「あなた達・・・。」
「あ、取り込み中だから後でね。ごはん〜〜♪」
「仕事を頼もうと・・・。」
こんな時に話しかけるのはタイミング悪いよな。
リナに遅れを取らないようにオレもナイフとフォークを手に取った。

「は〜〜っ食った、食った。」
「あ〜〜〜何ももう食べらんない。苦し〜。」
「あの・・・・。」
背後から声がする。
「あれ、あんたまだいたの?」
リナは先程の女を軽くあしらう。
「待て、と言われたので待たせて頂きましたが。」
「じゃあ、あたし達に何の用?仕事の依頼?」
「そうです。あたし達を護衛して頂きたいのです。」
どうも仕事の話のようだな。オレの専門外のことだ。
こういう事はリナに任せておくに限る。
「隣町までこの彼に護衛して頂きたいのです。」
何故オレに振る!?
「オレ単独での仕事ならお断りだ、オレはこいつの保護者だからな。」
オレはリナから離れるつもりは全くない。
自然とリナの頭に手をのばし、髪に触れる。
保護者か・・・。
「あのねぇガウリイ。」
リナの言葉を遮り、返答する。
「そう言う訳だ。」
こういう件はさっさと切ってしまうに限る。
「わかりました・・。」
女はオレの側から離れ出口を出ていった。
「ガウリイ・・・。」
「ん、何だ?」
優しく微笑む。
「ん、何でもない。」
軽い返事が返ってくる。
ふと、食堂の出入口に視線を感じる。
「あれ?」
さっきの女だ。
「どうかしたの?」
リナが問いかけながらオレの視線の先を追う。
ちょっと難しい顔をした。
「また、あんたか」
女相手にオレは少し悪態をつく。はっきり言ってあんまり関わりたくない雰囲
気だ。
「先程の依頼の件御両名にお願いしたい、でしたら問題ございませんよね。」
オレの態度に気付いてかわざとか判らないが、女は今度はリナに話しかける。
「まだ、依頼料の件話してないわ。」
リナも結構対応が悪い。乗り気では無いらしい。
「隣町まで普通の行程で2日間で金貨20枚でどうかしら。」
交渉話になってきたのでオレは様子だけ見ることにする。
女の方・・・やたら胸を強調してるよな。
「ん〜っもうひとこえっってとこかな。もちろん前金でね。」
女の顔がひくっと動いた。
「そ、それでは金貨21枚ではどうかしら。」
「わかりました、お引き受けしましょう。あたしはリナ=インバース、彼は
ガウリイ=ガブリエフ」
「ガウリイさんですか・・・。では早速宜しいでしょうか?」
なんかすごく厄介な事を引き受けたような気がする。
「まだお名前聞いていなかったと思うんですが、何とお呼びすればいいので
しょうか?」
「そうでしたわね、私の名前はアレキサンドラ=ティーウッド、そして・・・
。」
「宜しくお願いしま〜す。」
店の外で団体が一声に騒ぎ出す。
オレは前方を見て、予感は的中したと実感した。


「ガウリイさまぁ」
「ガウリイさま(はあと)」
何かよく判らないうちにオレは女達に囲まれていた。
とにかく騒がしい。
リナはオレを睨むし・・・。
リナの方はリナの方で男達に囲まれている。
お互い様じゃないか。

しばらく行くと小さな川があった。
「いや〜服濡れちゃう。」
「ガウリイさま、どうしましょう。」
女達はいっそう騒ぎ出し、オレに絡み付いてくる奴もいる。
役得・・・と言われるかも知れないが、はっきり言ってこれだけの人数がいれ
ば別の思惑も交差している訳だからそんな事考えるゆとりは無い
リナの視線が刺さるし・・・。
「浮遊!」
いきなりリナの体が側の男と一緒に浮かび上がる。
「リナさん。」
「だぁぁぁっ!変なところ掴むんじゃない!!!」
男がどさくさに紛れてリナに抱きついている。
何をしやがる!一瞬オレは男を睨みつける。
男の顔色が変わる、これでよし。
リナは呪文でみんなを向こう岸に連れていった。
最後はオレ。
「これで最後だな。」
女達に阻まれて久々にリナの側に来たような気がする。
リナを軽く抱きしめる。
暖かく、柔らかい。
「うん。じゃ行くわよ。」
「浮遊!」
体がふわりと浮き上がる。
岸に着くとあっという間に女達に囲まれた。


道を進んでいくと日が暮れかけてきた。
あまり遅くに移動するのは危険だ。
「お〜い。」
リナに声をかける。
「そうね、そろそろこのあたりで野宿の準備をしましょう。」
オレの言葉を理解してリナから返事が返ってくる。
足取りを止める。
「じゃあ、食事の準備にかかりましょう。」
周りの女達は一斉に食事の準備に取りかかる。
今初めて気が付いたけど、女達の中には少女から少女とは言えない方も混ざっ
ている。(実際に年を聞いていないから何とも言えないが)
ふと、そんな事を考えていると不意にリナの声がする。
「ガウリイ。」
「なんだぁ?」
「ちょっとこのあたりの様子を伺ってくる。」
この当たりはオレのカンでは特に問題は無さそうだ。
リナ一人でも。
「わかった。」
返事を返す。
「お供します。」
リナが立ち上がると何故か周りの男達7人も一緒に立ち上がる。
「すみません。ここでおとなしく待っていてはもらえませんか?」
「いえ、是非ともご一緒したいのです。」
男達と一緒に見回り!?
「判りました。」
イヤな予感がする。
「ちょっと用を足してくる。」
女達に言付けると、一時を追いてオレも付いていく事にする。


案の定、オレのイヤな予感は的中した。
男達がリナを押し倒していた!
リナ!
そう思った瞬間男達はばたばたと倒れだした。
呪文か・・・。
もう大丈夫だろう。
オレは安心し、元の場所に戻ることにする。

「おかえりなさい、何かあったんですか?」
リナはぼろぼろになった男達を引き連れて返ってきた。
アレぐらいで済んでいるとは珍しい。
「うん、ちょとね・・・だからついて来ない方がよかったのにねぇ。」
「きゃあ、ガウリイさまこわあぃ。(はあと)」
「どうしましょう。」
また女達が騒ぎ出した。
はっきり言ってどうでもいいことだ。それよりもリナの視線が痛くて。
判ってはいても言うわけにもいかない。
「おい、リナ。」
「何よ?」
「メシ出来たらしいから食べようぜ。」
リナが戻ってきた時には食事は出来上がってかなりの時間が経っていた。

「ガウリイさまおいしいですか?」
「うん、うまいよ。」
「おかわりもたくさんありますからね。」
女の子達に囲まれいちいち世話を焼いてくれる。
そんな事より、やっぱりリナの視線が痛かった。

夜もかなり更けてきていた。
「ガウリイ。」
リナの声だ。
「おう、なんだ?」
「あたし先に休ませてもらうわ、時間が来たら起こして。」
珍しく早い時間なのに寝ようとする。
なんだかんだ言ってもリナも女の子だ。先程の出来事は思ってるよりも傷付い
ているのかも知れない。それを回避する事が出来なかった自分に腹が立つ。
「了解。」
リナはそのまま地面に転がった。
すぐに寝入ってしまったようだ。
男達は既に寝ている。(寝ていると言うよりダウンしているの方が適切かもし
れないが)
オレはと言うと相変わらず女達に囲まれていた。
リナと交代までの数時間こんな状況なのかと思うと結構イヤな気分になった。


何とか交代の時間になりリナを起こすことにする。
「リナ・・・。」
「おはよう、交代の時間だ。」
「ガウリイさまぁ・・・。」
女達はまだ起きていた。
「おはよう・・・って周りの・・起きてたの?」
まだ眠そうに目をこする。
「ああ、目が覚めたみたいだな。じゃあ交代だ。」
オレも女達のおかげてかなり限界に来ていた。
リナが起きあがるのと同時に地面に転がる。
「おやすみ・・・お疲れさま・・。」
リナの声が聞こえた気がする。
そのままオレは意識を闇に沈めた。


「朝ですよ〜〜起きて下さい〜〜。」
リナの声が聞こえる。
「おはよう、リナ」
体を起こし、声をかける。そして同時に耳を塞ぐ。
「起きろ〜〜〜〜!!!。」
リナの甲高い声があたり一面に響く。
「さて、あさごはんっ!」
女達は起きたかと思うとまたオレに群がってきた。
食事中もべったりだ。
リナ・・・オレをそんな目で見ないで欲しい。
リナの目は完全に怒っていた。
オレは食事をそうそうに終え、出立の支度をする。
案の定、リナとオレ以外は荷物の整理に追われていた。
「きーっブラシが見つかんない〜!」
「いやだ、袋に入らない。」
まだ一時はかかるか・・・。
オレは木陰に腰を下ろす。
そしてぼんやり空を見上げる。
澄み切った青い空。雲が泳いでる。
リナがオレの側に腰掛ける。
何も語ることは無かったがそれで充分だった。


出立して気が付いたが、今日はリナの周りに男達がまとわりついていなかっ
た。(当然といえば当然だが)
しかし相変わらずオレの周りには女達がまとわりついている。
何を考えているのか判らないが(もちろん聞く気もない)今日の雰囲気はトゲ
トゲしい雰囲気に包まれていた。
そのせいかリナは割と側にいたのに間を取って歩くようになった。
オレ自身も本当は逃げ出したい。女の争いには関わらないことが一番だ。
逃げたな・・・・オレに出来ることはリナをジト目で見ることぐらいだった。


ちょうど腹が減ってきた頃に町が見えてきた。
やっと解放されるかな・・・そう思った瞬間女達の一人が騒ぎ出す。
「ちょっと待って下さい!」
それを皮切りに周りの女達が騒ぎ出す。
「もう町に着いちゃいますよ。」
「結論出していただかないと。」
「あんた達も何か言いなさいよ!」
男達に向かって叫ぶ女がいた。
はは・・ん。そう言う事か。
「あ、俺達は遠慮しとくわ・・・。」
そりゃ、吹っ飛ばされてもいいって言う奇特な奴は普通いないぜ、はっきり
言って。所詮凡人がリナを何とか出来るはずは無い。
見かけにダマされて夢から醒めたって所だな。
あっという間に男達は消えていった。
男達を見送っていると急にオレを呼ぶ声がする。
「ガウリイさん。」
女達の一人だ。
「へっオレ!?」
「この中から好きな子を早く選んで下さい。」
「そして私たちの町で一緒に暮らしましょう。」
どういう話になっているんだ?
リナがオレを醒めた目で見つめる。
「なんだかよくわからん。」
特に考えず、リナの方に歩み寄る。
「あえて言うなら・・・オレはこいつの保護者だからな。」
オレにはリナしか目に入らない。
そして髪に触れる。
一瞬赤くなったリナの顔をオレは見逃さなかった。
「そんなっ!お互い一夜を共にしたんですから私の事判っていただけたでしょ
う!?」
「なによっあんただけ!あたしの手料理おいしいって言ってくれたじゃない!」
「私と一緒に町に戻っていただけますよね?」
急に女達が騒ぎ出す。
どうしろというんだ?
「どうなってるんだ?リナ?」
オレはリナに訪ねてみる。
顔を見ると・・・やばい・・・これは・・・・。
オレは心持ち後ろに下がってみる。
「え・・・と・・アレキサンドラさんでしたよね・・。」
声がふるえている。
「私が何か?」
「今回の依頼って確か護衛でしたよね・・・。」
「そうでしたっけ?いま取り込み中ですので。」
あ、やば・・・。
「で・・・みなさん今何を争っていらっしゃるんでしょうか?」
「誰がガウリイさまの伴侶になるかですわ!」
合掌・・・。
「炸弾陣!」


今日は早めに宿を取りゆっくり休む事になった。
いつも通りの夕食を終え部屋に戻る。
「あ〜今回は疲れたわ。今日は早く寝よっと。」
リナの何気ない一言。
オレは夕べの事をふと思い出す。
部屋のドアの前で別れるのがイヤだと感じた。
リナがドアのノブに手をかけようとしたときに腰をさらう。
細い腰、華奢な体。
抱きしめる。
昨日はお前を守れなかった。
軽く力を入れて抱きしめる。
一時だけ。
昨日の事をしたかったのはオレかも知れない。
そんな気持ちが頭をかすめる。
「ごめんな・・。」
罪悪感か?
そう思う事の?
リナの体を離す。
この気持ちを悟られぬように。
「おやすみ、リナ。」
「おやすみ・・」
オレは保護者だ。

オレは部屋に入り、ベットに寝転がる。
天井を見上げながらふと思う。

保護者か・・・。
ふと笑いがこみ上げる。自虐的な笑い。

いつまでだろうな・・・。
もちろん答えは聞こえる筈は無かった。

END

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