気が付くと、そこここに陽だまりが溢れていた。
「わあ!いきなり春になったみたい〜。」
声を上げると、リナは駆出した。
昨日までの寒さが嘘のように、
いきなりの暖かさが縮こまっていた花たちを目覚めさせた。
そこにもここにも、小さいお日さまのような花が風に揺れて微笑んでいる。
気の早いものは、もうその頭を白い綿毛にして
今にも飛び立とうと空へ心を向けている。
目を空に移すと、ひらひらと白い蝶たちが、
喜びを振りまくように、踊っている。
思わず歌が零れるリナの横顔を俺はなんとなく、朗らかな気分で眺めた。
傍に寄って肩に手を置くと、
楽しそうだった横顔が少し染まった。
(―おや?)
心に引っ掛った言葉を俺は飲みこんだ。
そういえば、最近だ。
リナがこういう風になるのは。
前はどんなに頭を触っても、抱きついて飛んでも
悪けりゃ魔法で吹っ飛ばされるくらいで、
特に何かあるわけでもなかったのに、
この頃はそうだ。
頬がもとの色に戻っても、俺は触れている手を離さない。
少し遠くで鳥が鳴くのが聞える。
今日の日の暖かさに、心も温かくなる。
俺の手を逃れてリナが、白い蝶を追う。
捕まえる気もなく、ひらひら舞う蝶の後を嬉しそうについて行くリナ。
そんな当たり前の風景が、心に染みる。
いつまでも見ていたいと思う。
それが、愛しいという気持ちなんだろうな。
小石に躓いた身体を慌てて抱きとめると、
さっき以上に頬が赤くなる。
腕の中の小さな身体から伝わる動悸が、
気持ちも伝えてくれるような気がする。
見上げる目には俺が映っている。
まだ、何も言い交わしたわけではないけれど、
うぬぼれてもいいよな。
気持ちはいつもすれ違う。
それは、愛しいという気持と、恋しいという気持ち。
やっと、心を開き掛けているリナと俺の間に流れる二つの気持ちは
いつか同じ流れに辿りつくと、
なんとなく、この手の中のぬくもりを感じて信じられる。
心もまだ幼いお前が、そっと恋に恋する気持ちを
俺は愛していこう。
顔色の戻ったリナが、俺を一発スリッパでどついた。
頭を抱える俺。
舌を出して毒づくリナ。
一面のたんぽぽが風に吹かれて笑って俺達を見上げていた。
優しい風が気の早い綿毛を運んだ。
二人黙って、その行方を眼で追う。
またもとの道に戻って、俺達は歩き出す。
心に同じ明るさの陽だまりを仕舞って。
微笑むリナに俺も頷く。
そっと愛していこう。
そのままでいい。
急に変わることはない。
風に運ばれるように気持ちは寄りそう。
そう、あの陽だまりの花のように俺達は過ごそう。
精一杯、空を仰ごう。
そして、
俺しか知らない風に揺れるたんぽぽを
そっと愛していこう。
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