あたしはふと気付くと・・・・木の上にいた。
なんの変哲も無い木。重なり合った葉っぱの隙間から日の明かりがこぼれている。この角度からするともう夕方が近いようだ。
「野宿はイヤだし……そろそろ宿の事考えなきゃね……。」
まずは町に向かうと言う事が大前提なのだが、先程その町から飛び出してきたばかりなのだ。次の町へは急いでも夜中になるだろう。
「なーにやってんだろ………あたし………」
ひとり愚痴を言ったところで返事が返ってくるわけでもなく、その空しさを紛らわせるかのように葉っぱを一枚つかんで口元へ近づけ、息を強く吹く。
ぶっ
葉の振動音が一瞬鳴ったかと思えば後は息の漏れる音だけが残った。あまりの下手さに笑いがこみ上げる。
「……ガウリイが上手かったのよねぇ
……くらげのクセに変なところで器用でさ……」
旅の連れ、と言うと聞こえはいいが実際は勝手についてきた自称保護者。一度言った事は右から左へ抜け記憶と言うものにはとことん縁が無い。
人の有益かつ高等な社会奉仕(盗賊いぢめとも言うかもしんない♪)を尽く邪魔する……ガウリイ曰く心配(盗賊がと言う説もある、失礼なっ!)らしい……確かに一緒に行動してみるとわかるのだが、とにかく誰にでも親切なのだ。単に人のいい兄ちゃんと言ってしまえば簡単なのだが実際は何も考えていない、しかしあの容姿と暖かい微笑が人を和ませるのも事実。だからこそあたしも同行を拒めなかったのだが、その道中でさえ荷物を抱えたお年寄りを見つけては荷物を預かり、子供が泣いていれば訳を聞きなだめる、若い姉ちゃんが変な輩に追いかけられていればその輩を成敗する。そう先程も………ガウリイにとっては当たり前の事だったのだ、でもあたしには耐えられなかった。
何故?
「おなかすいたなぁ……。」
がさがさがさ。
「ほい」
「ありがと……へっ!?」
あたしの手の中には大きなみかんが、そして目の前には町に置いてきたはずのガウリイがいた。
「なんで……???」
さっきの町でガウリイはまた困った人を助けていた。そのお礼にと家に招待されていたのだ、丁度綺麗なお姉さん達3人に囲まれて。その時あたしはその場に居たくなかったのだ、そう思うと勝手に足が走り出していた。
「おまえさんのへたっぴいな音が聞こえたからさ」
ガウリイはそういいながらあたしの目の前の太い枝に腰掛ける。
そして、脇の子袋からあたしにくれたものより大きなみかんを取り出し皮を剥き始めた。その表情はいつもと変らず飄々としている、あたしが置いていったということも責める様子は無かった。のんびりと鼻歌を歌いながらみかんのすじまで丁寧に取り去りそのひと房を口にほおばる。
「けっこういけるぞ、このみかん。
あれ?リナ食わないのか?」
あたしは困惑していた。
確かに悪い事をしたわけではない。でもあんな態度を取られて気を悪くしない人はいないだろう、でもこのくらげ…もといガウリイはそんなことは全く気にしていないようなのだ。
「わきゃっ!?」
ガウリイの手が急に伸びてきたかと思うと急にあたしの口に押し付けられたもの…みかんのひと房が唇に触れる。
「みかんも剥いてやら無いと食べられないって事か?
ホントにリナはお子様だよなぁ。」
やれやれと言った感じの口調だが、その笑みは優しく暖かい。
でも、子ども扱いされているのは相変わらずだ。その事が無性に腹が立つ。
「ちゃんと口開けないと無いと食べられないぞ?
はい、あーんして♪」
笑いながら言うガウリイ………からかってるんだ。
あたしは言われた通り口を………大きく開け、噛んだ。
ガウリイの指ごと。
「いってぇ〜〜〜っっ!!
指噛んだな〜〜っっっ!!!」
とっさに手を引っ込め、指にふうふうと息を吹きかけ痛みを飛ばそうとするガウリイ。
その光景をみてあたしの中のもやもやは少し飛んだ気がした。
ガウリイがくれたみかんを噛みしめると、口の中にすこしすっぱくて、でも甘くおいしいジュースが喉を潤した。
「うん、おいしい♪」
「……血が出るまで噛むか普通……」
そんなにきつく噛んだつもりは無かったんだけどなぁ……あたしが知らないふりをしているとガウリイは指を丁寧に舐め始めた、あたしが噛んだところを。
体が熱くなる………意識するつもりなんか全く無いのに。
ガウリイの頬が赤く見えた、多分それは夕日が落ちてきたせいだろう。
「さーて、早く町に戻って宿見つけないと野宿になっちゃう。
と言う事でお先ーーーっっ!!」
あたしはレイ・ウイングをかけふわりと空に舞い上がった。
このもやもやを自分の中ではっきりと自覚するまでにはもう少し時間がかかるようだ。
end
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