神は我を見捨てたか?
この豊かな大地を全て無に化してしまうのか?
全ての生きとし生ける物全て抹消してしまうのか?
私は死にたくない。
いや、今こそ神にすがるとき。
魔にこそ真実はある。
これからどうなるんだろう?
どこかへ逃げてしまおう。
何処へ?
世は乱れ、戦を繰り返す。
自分以外はみんな敵。
普通そうに見えても魔族に乗り移られているかもしれない。
何を信じたらいい?
「・・・・・・・。」
「何考えてる?おまえさんは・・・?」
不意に声をかけられリナはガウリイの方に振り向いた。
「・・・いやぁ・・・あっけないもんなんだなぁって思って・・・。」
二人の間に沈黙が訪れた。特に当てもなく進んでいく足下には見るに無惨な屍が無造作に転がっている。もちろん片づける者も弔う者もいない。
狂気に満ちた金切り声、悲痛な泣き叫ぶ声。
まれに屍の中で動く者もいる。そのまま動かない者に食らいつく。
狂ってる・・・・。そんな光景が既に当たり前になっていた。
魔族が人に融合するようになってから・・・。
初めは小さな村で起こった異変だった。
ほんの些細なことであった筈が人の信頼を崩していくには十分すぎた。
隣人・友人・家族でさえも、そして自分さえも信じる事が出来なくなった。
人の心には狂気と闇が住んでいる。徐々に心は蝕まれ魔に取り込まれていく。
そして発する負の感情は魔族の糧となり爆発的に拡がっていった。
リナ達も異変に気付き、あまりにも異常な事だったので急いでゼフィーリアに帰った。
そこで見た物は血塗られた崩壊した町だった。
昔見た穏やかな町並みは全くない、あの店も、人影さえも見えない。
そして神殿には見せしめの様に切り刻まれたかつての姉であったであろう者が張り付けてあった。
信じられない・・・。
普段冷静なリナが壊れてしまったんでは無いかと思うくらい泣き叫んでいた。
そのリナを何も言わずただガウリイは支えていた。
その光景を嘲笑うかのように魔族に取り入られたかつて人間だったであろう者が取り囲んでいた。嫌味なもので手は出してこない、ただ負の感情を食らっているだけだ。
守るかの様にガウリイはただリナを強く強く抱きしめた。強く抱きしめられ苦しさの為かリナは正気を取り戻す。そしてかつての自分の家のあったであろう方向へ歩き出す。
ガウリイの手を掴んだまま。
リナの家は見ている限り特別変わった所は無かった。リナは家に入り何かを探すように走り出す、そしてある戸の扉の前で立ち止まる。封印をしてあったらしくリナは素早く解呪して部屋に入る。部屋の机には一通の手紙が置いてあった。
姉からリナ宛の手紙。内容はたった一言。
世界が終わる・・・・と。
「あたしは生きる。」
自分に言い聞かせるようにリナは大きな声を張り上げて言った。
リナの体は震えていた。ガウリイはその小さな体を引き寄せ再び抱きしめる。
言葉には出さずとも二人は信頼しあっていた。
そして切っても切れない強い絆で結ばれていた。
部屋の中の小さな窓から夕日の強い日差しが差し込んでいる。
その強い光が二人が生きている事を実感させた。
そしてお互いの体温が一人で無い事を心強く感じた。
「あたしは今生きてるんだから、最後まで生きてやる。
絶望なんてあたしには似合わないわ。」
その言葉に苦笑しつつガウリイは言葉を返す。
「変わらないよなぁ、初めて合ったときから。」
「あたし・・・変わったよ・・・。」
「・・・そうだな・・・。」
ガウリイの手にリナの手が重なった。
人なのか?魔族なのか?
正気か?狂気か?
風と共に聞こえる噂。
明日は世界が終わり逝く日。
真実は?
end
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