木の実をひとつ

 作者 dbt
 

 

今日はとってもいい天気。腹が立つくらい。
あたし、リナ・インバースは街道をただてくてくと歩いている。
いつになったら次の町に着くのよおっ!
通りすがりの馬車もなし、ここ2・3日人に会うこともないし・・。
しくしくしく。

「なあ、リナ」
だぁ〜うるさい!
「リナ」
わかってるってば!
「道、間違えてるんじゃないか?」
炸弾陣!


そう、前の町で隣町まで行く道中で行方不明者が続出していると言うことで依頼を受けたのが1週間前。
魔導師協会からの依頼なので依頼料は格安だが、そろそろ路銀もさみしくなってきたので今回の依頼を引き受けてみた。
どうせ、変な魔物でも住みついていらない事でもしてるんだろうと軽く引き受けては見たものの、隣町まで1週間で着くはずの距離をあたしたちは人にも会わずただてくてくと歩き続けている。
これは絶対地図が悪いのよ!
町に戻ったら絶対依頼料上乗せしてもらおう・・・。
ぶつぶつそんな事を考えているとガウリイが話しかけて来た。
「そろそろ昼にしないか?」
のんびりとガウリイがあたしに話かける。
「どーすんのよっ!もうあんまり食料無いのよ。」
すでに食料は底をつきかけている。
「周りを見てみろよ」
にっこりと微笑みながら言葉を返す。
「へ」
あたしは周りを見回す。
そこには木々がたわわに実を実らせていた。
「よっしゃあ、ガウリイ偉い!」
「旨そうな実だろ、よくこれだけ実ってるよな」
ガウリイは手近にあった木の実をもぎ取り、口にほう張る。髪に日が透けてきれい。
「うん、旨い。リナちょっと待ってろよ。」
そう言うと手近な木からまた実をもぎ取りあたしに投げる。
「ありがと」
ちょっとゆとりが無くなってきてたかな。こんな時のガウリイのタイミングにはいつも驚かされる。
そして、あたしはその実を口に運んだ。
そのあとあたし達は胃が満足するまでその実を食べ続ける。
それがそもそもの間違いとは知らずに・・・。


う〜ん。ちょっと食べ過ぎたかな、少し気持ちが悪い。
それよりもあたしの頭の中が混乱してる。え〜と僕は(あれ?)結婚?(???)
ガウリイの様子も何かおかしい気がする。

「あのさ」
「なあ」
「僕たち結婚したんだよね」
(でえぇぇぇっ!なんか違うっ。こんな事言うつもりないのに)
「兄貴ぃっ!」
(ガウリィっ!誰が兄貴だぁっ!)
よく見るとガウリイは真っ青な顔をしていた。

あたしは自分と違う意識に乗っ取られているような感覚におそわれていた。
別の意識があたしの口を借りてしゃべっているような感覚。もちろんあたしの意識はあるのだが、口から何故か発することが出来ない。

「周りから見ると新婚さん(はあと)だよね」
(何言ってるんだぁあたしは)
「もう誰にも後ろ指さされないんだよね」
(げ、ガウリイ何言ってるのよ)
「今度の町は温泉街だから二人でゆっくり・・・」
(もういやっ)
「男同士誰もジャマされない町を探そうね」
(・・・・・・・)

しばらくこんなやりとりが過ぎた頃、あたしは思った。
こんな意味のない会話いつまでしなくちゃいけないんだろう。
あれ、会話・・・何か引っかかる。
これ会話になって無いじゃない!
でも、口を開けば訳の分からない言葉を語り出す。あたしの方は新婚さんの旦那様かな、ガウリイの方は・・・あまり深く考えない方がよさそうね・・・。
ふとおもむろにガウリイを見ると、顔がさっきよりも青くなっている。
(さてと)
あたしはおもむろにペンを取り出した。


[どうしてこんな事になったか判るか?]
[そんな簡単に判れば苦労しないわよ、考えられるのは昼に食べた木の実ぐらい]
[ああ、あれうまかったよな]
[このクラゲ!元はと言えばあんたがあの木の実見つけたんでしょーが!]
[おまえさんだってうまそうに食べてたじゃないか]
[それとコレとは別!]

あたしの思ったとおり、ガウリイと会話は出来ないが筆談は出来る事がわかった。
でも、やっぱりガウリイと会話してても解決の糸口になりそうなものを得ることはもちろん無かった。
わかってはいたけど、やっぱりむなしい・・・しくしく。

[なあ、話してみないか?]
[さっきの言葉の続き聞きたいの?たしかあたしの方は二人のなれそめだったかな]
[・・・・・]
[あんたの方のは聞きたくないわ、はっきり言って]
[オレだってイヤだ。でもこのままじゃずっとお前さんと話すことも出来ないんだぜ]
[あたしだけじゃなくて、誰ともね・・・呪文も使えないし・・・]
[それはまずいな、ある程度話ちまえば打ち止めになるとかならないか]
[今出来るのはそれぐらいしかないけどね、他の方法がさっぱり判らないわ]
[それじゃ、試してみるか]
[やるしかないか・・・・]
あたしたちはため息をつきつつ言葉を話そうとするが、どうも口が重い。なんせ内容が内容だし。せめてもうちょっとマシな会話だったら・・・特にガウリイの方。
二人が自棄で話し出した所で急に周りの雰囲気が変わった。
[何か来たぞ]
[うん、いくわよ]
あたし達は剣を構えて立ち上がった。


「うあああっ!」
へ、普通の人?あたし達の目の前には何故か旅人風ではなくそのまま野良仕事をしているような格好の小柄な男が立ったいた。
「何故こんな所に人がいるんですかぁ!」
あたしの方がびっくりしたわよ。ここ何日か人に会っていないっていうのに、突如現れたあんたの方が怪しいわ。うん、そうに違いない。
「さあ、僕といっしょに愛の城を築こう・・・」
ガウリイの馬鹿・・・・。ああ、言った側から固まってるし・・・。
そう言えばこれじゃあ会話も出来やしない・・・・。
「・・・もしかしてあの実を食べたんですか?」
「さぁ今日こそ君を!」
あたしもしばらく固まる事となってしまった・・・。
こんな状況もう、いやっ!
「まだ実験中なのに・・・さっき様子を見に行ったら大量にもぎ取られた様子だったのはあなた達のせいですね!」
ちょっと待ってよ。確かにひもじかったから少しばかり(?)頂いたけどこんな山奥で誰かが植えてあるなんて思わないじゃない、ん、実験・・?
「僕の貴重な実験をジャマするなんて・・・」
そうすると、今のこの状況は・・・だんだん腹が立ってきた。でも今のあたしの状態じゃ呪文一発さえ使えない。当然ガウリイはこの状況を理解できていない様子でほけーっとしている。
「とにかく・・・僕についてきて下さい。」
治す方法のわからない今の私達には、このアヤシイ人物について行くしか無かった。
こんな恥ずかしい事になったお礼は後でちゃんとしてもらおうと心に決めて・・・。


しばらく歩いていくと丘の上に「一軒茶屋」と書いた看板が見えてきた。あたし達の歩いて来た道中には見た覚えがなかった気がする。
こじんまりとしたきれいな喫茶店といった所かな?そのまま男はその店に入って行く。
「少々お待ち下さいね」
男は足早に厨房に向かう。実験に付き合わせるお礼にあたし達になにか食べさせてくれるつもりかしらん?でも、さっきから何か気になるにおいがする気がする・・・なんだったっけな?
ガウリイがあたしの肩をとんとんとたたく。
あたしは再びペンを取り出す。

[いったいどうなってるんだ]
[昼間食べた木の実に何か入ってたみたい]
[何かって何だ?]
[わかんないわよ、さっきの男の人魔導師みたい。実験中の木の実だったらしいわ]
[それで、この状態治してくれるのか?]
[実験中!って言ったでしょ?わかんないわ]
[おいおい]

「おまちどうさま」
男はスープを二つ運んできた。
「どうぞ、お召し上がり下さい。」
いやぁ気がきくじゃない♪さて・・・あたしはスープ皿をガウリイの皿ごとひっくり返した!
さっきから気になっていた臭い・・・ブルーリーの臭いだ!(眠くなる木の実です)
あたしの尋常では無い反応にガウリイは答え、あっという間に男を組み伏せていた。
いつものあたしならこれから楽しく尋問、と行くところなんだけど調子狂うわぁ・・・。渋々ペンを取り出した。


ガウリイは男の首筋にナイフを当てていた。
[あたし達をどうするつもりだったのか聞かせてもらいましょうか]
「もちろん実験に協力してもらうつもりに決まっているだろう」
[で、スープに眠り薬を仕込んで、どこが協力出来るっていうのかな?]
「答える必要はない」
[ふ〜ん、そういうつもり。ガウリイすぱっとやってみる?]
あたしがガウリイにジェスチャーを送ると、それに反応してガウリイは男の咽もとのナイフを肌すれすれの位置まで近づける。
「ま、待ってくれ」
「実験に協力してもらうには眠ってもらう必要があったからだ」
[で、無理矢理眠らせるのは協力とは言えないわね、いったい何の研究中な訳?]
「魔導師の研究をそう簡単に人に話すと思うのか?」
ガウリイにジェスチャーを送る。
ガウリイは刃の平面を首筋に押しつける。
「話す、待ってくれ」
気の弱い魔導師ね。まあ首筋にナイフを当てられて平気な人はまあいないでしょうが・・・。
「・・・会話を保存する方法だ。」
[それと、木の実とあたし達の話す言葉のどういう関係があるわけ?]
「おまえたちの食べた木の実・・それが保存した会話だ。その実を食すと保存していた言葉を食べた者が語り出すという訳だ。」
道理で、あたし達の意志とは関係ない言葉を話すわけだ。
[で、この状態を治す方法は?]
「実験中と言っておっただろう?」
[もしかして、・・・・無いとか?]
「あたりまえだろう」
ぴきっ。
あたしは思いっきり顔を引きつらせる。その様子が男にも伝わったらしい、あわてて男が文字を付け足す。
「保存した言葉を全て語り尽くせば治る。」
結局その方法しかないのか・・・。頭が痛くなってきた。
[もう、いいわ、ガウリイ開放してあげて]
その言葉にガウリイは男を解放した、こんな魔導師を捕まえてなんかした所で何の特にもまりゃしない・・・流石にいろんな事で疲れたので、あたしは休みたくなった。
[きょうはここに泊めてもらうわよ、いいわね]
男はこくこくとうなずいた。
[ガウリイ・・・不本意だけど語りあいましょう・・・]
ガウリイの口元が少しだけ歪んだ気がする、そしてあたし自身の口元も・・・。

さすがに小屋だけに客部屋は一部屋しかなかった。さっきの男はどうも信用ならないので、その部屋を借りベットと(あたし)とソファで眠ることにする。
結局語り合い(というより言葉の吐き出し)が終わったのは明け方近くになってからだった。何か引っかかるものを感じながらあたしは眠りについた。


久しぶりにふかふかとは言い難いがお布団で寝る事が出来たのでゆっくり休む事が出来た。そんな訳で頭もすっきりしている。
ガウリイはすでに身支度を終えている。
「おはよう、リナ」
「おはよう、ガウリイ」
お互い挨拶を交わす。
「さてと、行きましょうか」
あたし達は台所の方へ向かった。


台所に行ってみると、かすかにブルーリーの臭いがした。
「おはよう、まさかまたあたし達を眠らせよう何て事考えているんじゃないでしょうねぇ?」
わざと嫌みったらしく男に話しかける。
「おい、リナ」
ガウリイに手を掴まれ強く引っ張られる。
「なにすんのよ!」
瞬間、胸のあたりに風が走る!
「くそっペチャパイめ」
・・・・・・・・・・・・・殺す!!!
「ぶつぶつぶつ・・・」
「おい、ちょっとまて、こんな所で止めろ!」
後ろで何か言ってるガウリイなんて気にも留めず、あたしは力ある言葉を解き放つ。
「ファイヤー・ボール!!!」
ふふん、このリナ=インバースを馬鹿にする奴は許さない!しかも「禁句」を口にしたならば・・・死あるのみ!
「うわぁぁーーーっっ!!」
男は叫びながら外に飛び出していった。流石出力全開の火炎球はよく燃える。小屋も見事によく燃えるって・・あり?
・・・・ちょっとがんばりすぎだったかもしんない。
「ちいっ!」
ガウリイが呟き、瞬間あたしは腰をすくわれていた。
ぐわっしゃん!!!
ガウリイがあたしと男を抱え外に飛び出したのは建物が倒壊する直前だった。
ああ、まだよく燃えてる。


「さあてと、一体どういう事か教えてもらいましょうか?」
あたしは男に向かってにぃっこり微笑む。
男はちょっぴり(?)焦げてるせいか返事が返ってこない。火を消すために飛び込んだ井戸で暴れるのに忙しいせいもあるだろうけど、まぁ一応助けておくのが筋だとは思うので上からつるべなんて落としてみると、

かぽーんっ!

見事に命中したようだ。流石にちょっと洒落にならないかなぁなんて思いながらまぢめに助けてあげる事にした。

「おい、リナあれ見て見ろよ。」
呪文で井戸から男を助け出した時に、ガウリイが焼けた小屋の方向を指差していた。昨日は小屋があって気付かなかったが、小屋のあった方角の裏に洞窟の入口があった。あれが研究室てとこかな。
「よし、いってみましょう。もしかしたらお宝あるかも知れないし♪」
「こいつどうするんだ?」
う〜ん、燃え尽きてるなぁ・・・。
「ガウリイくくって引きずってね(はあと)」
「おい、引きずるのか。くくって転がしておけば問題ないと思うが・・・」
ガウリイは呟きながら男をロープでくくりつける。
あたしは気にせず洞窟の方に進みはじめた。


洞窟にはいるとあたし達は唖然とした。
洞窟の通路に転がる人・人・人。
確認したところ死んではいないみたい。しかし、このままの状態だといずれ生命の危険が訪れることは間違いない。
「リナ・・・」
「急いで町に戻りましょう」


町に戻ってからの対応は早かった。
あの男はやはり魔導師で、会話を保存する研究のサンプルが欲しいために道中に茶店をつくり客にブルーリー入りのスープを食べさせていたらしい。
そしてよくある事なんだけど自分の関心事以外は異様に疎い人が多いのよね。
あの魔導師は睡眠の薬には疎くて必要量以上スープに入れたために眠りっぱなしの人を大量発生し、しょうがなく洞窟に置いていたと人伝に聞いた。
そして、眠らされていた人たちは眠らされてから一週間前の事もすっぱり忘れてしまっていたらしい、あのまま実験につき合わされていたら怖いことになっていたかもしんない。
あたしたちは魔導師協会から上乗せされた礼金をもらい、町で宿を取った。
何故上乗せされたかって?それは内緒(はあと)

さて、次はどこ行こうかなっ!



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